洗面所の排水栓が上がらないという、地味ながらも深刻なトラブル。多くの人がまず向かうのが、インターネットの検索窓、そして近所のホームセンターではないだろうか。配管交換した東京中央区の水道局指定業者に様々な工具や補修用品が並ぶ店内で、私たちは一縷の望みを託す。今回は、日々こうした悩みに向き合う、ホームセンターのDIYアドバイザー、田中さん(仮名)に、利用者が自分で解決できる範囲と、プロに任せるべき境界線について話を聞いた。 「『洗面所の栓が戻らなくて…』というご相談は、水回りトラブルの中でも本当によくお受けしますね」と田中さんは語り始めた。「大抵の場合、お客様は少しパニック気味です。まず私たちがするのは、状況を落ち着いてヒアリングすること。栓はボタン式ですか?レバー式ですか?と。原因のほとんどは、やはり髪の毛や石鹸カスが固着した汚れです。そこで、まずご提案するのが、数百円で買えるプラスチック製の『パイプクリーナーブラシ』や『ゴミ取りスティック』です。これらは配管を傷つけるリスクが低く、物理的にゴミを掻き出せるので、薬品よりも直接的で効果が高いことが多いんですよ」。 堺区の浴室専門チームで排水工事が田中さんによれば、多くの利用者が最初に手に取るのは強力な液体パイプクリーナーだが、これは万能ではないという。「液体クリーナーはあくまでヌメリを溶かすもの。ガチガチに固まった髪の毛の塊や、うっかり落としたピアスのような固形物には歯が立ちません。むしろ、薬品で解決しなかったからと、次に私たちがご案内するのが、先ほどのブラシやスティックなんです。そして、もう一歩踏み込む方には、排水管のS字トラップを分解清掃する方法をご案内します。その際に必須になるのが、水漏れ防止用の『交換用パッキン』です。一度外したパッキンは劣化していることが多く、再利用すると水漏れのリスクが高まります。トラップを外すなら、必ず新しいパッキンも一緒に購入してください、と強くお勧めしています」。 では、DIYで解決できるのはどこまでなのだろうか。その「境界線」について尋ねると、田中さんはきっぱりと答えた。「部品そのものが破損しているのが見て分かる場合、例えばポップアップ式のレバーが折れていたり、ワンプッシュ式の栓が押してもカチカチ言わなくなったりしている場合は、内部機構の故障が考えられます。こうなると、お客様ご自身での修理は非常に困難です。また、S字トラップのナットが固着して全く回らない、あるいは分解はできたけど元に戻す自信がない、という場合も、無理は禁物です。中途半端な作業で水漏れを起こせば、被害は何倍にもなりますから。その際は、正直に『今回はプロの水道修理業者さんを呼んだ方が安全で確実ですよ』とお伝えしています」。 最後に、最もコストパフォーマンスの高い予防策を尋ねると、田中さんは笑顔でレジ横の小さな商品を指差した。「間違いなくこれですね、排水口用の『ヘアキャッチャー』です。100円や200円の投資で、将来数万円かかるかもしれない修理代と、何よりトラブルに見舞われるストレスを防げるんですから、これほど優れた予防策はありません」。 ホームセンターは、私たちのDIY精神を力強く後押ししてくれる場所だ。しかし、そこに並ぶ道具や部品は、正しい知識と使い方があって初めてその真価を発揮する。自分のスキルと状況を冷静に見極め、時にはプロに頼る勇気を持つこと。それこそが、DIYを楽しむ上で最も大切な心得なのかもしれない。